むかしむかし、緑の森と青い空に囲まれた小さな村に、一匹のこひつじが住んでいました。名前は「ミル」。ミルは好奇心いっぱいで、毎朝、花の香りを追いかけながら草原を歩くのが大好きでした。
ある日の午後、ミルはいつもより遠くまで歩いてしまいました。気がつくと、太陽は山の向こうへ傾き、森には長い影が伸びています。
そのとき、木の向こうから「ザッ、ザッ」と大きな足音が聞こえました。現れたのは、森で一番大きなおおかみでした。ミルは足を震わせました。
けれど、おおかみはミルに近づくと、静かな声で言いました。
ミルは少し迷いました。それでも、おおかみの目に嘘がないことに気づき、小さくうなずきました。
二匹は森の小道を歩きました。途中で強い風が吹き、ミルの赤いリボンが木の枝に引っかかりました。おおかみは大きな体をかがめ、そっとリボンを外してくれました。
やがて遠くに村の灯りが見えてきました。ミルは振り返り、初めて笑いました。
おおかみは少し照れながら答えました。「森は広い。でも、困ったときには声を出せ。聞こえたら、きっと行く。」
その夜から、森には不思議な噂が流れました。小さなひつじが森で迷うと、大きなおおかみが道案内をしてくれるのだ、と。
そしてミルは知りました。見た目だけでは、その人の心はわからないことを。大きな体の中に、とても温かな心が隠れていることもあるのです。
森の木々は風に揺れ、月は静かに二匹を照らしていました。